『おれたちモヒカン族:後編』 会社経営のAさんは、妻と息子の3人で暮らしています。 息子は頭がいいパソコン少年ですが、そんな息子はただひとつ、賢いがゆえに普通の人とは違っている点がありました。息子はモヒカン族だったのです。 モヒカン族とは、インターネットで最近増えてきた理詰めの思考を優先する人たちの総称で、感情を可能な限り排除したその姿勢が感情的な『村人』と呼ばれる人々としばしば諍いを起こします。妻は完全な村人で、息子は立派なモヒカン族に成長していたのです。 最初は「母さんのブラウス知らない?」という話でしたが、理詰めで自分が知ってるわけがない&落ち度が無いことを証明しようとする息子の態度が気に入らない妻は半端なくヒートアップ! ついには息子がブラウスを捨てた犯人だと決め付け、ヒステリーを起こし始めました。しかし、息子はすぐに妻の部屋のベッドの下からブラウスを見つけてしまったのです。 「いや、ブラウスだよね。これ以外にも2・3枚落ちてるみたい」 そう、連続して無くしたはずのブラウスが、ベッドの下から続々と出てきました。 「……」 妻は凍りつきました。 「ここって探したことある?」 息子は聞いてきました。 「……」 もちろん、探したことなどありません。 「……まあいいや、見つかってよかったね、母さん」 返事がない母親を尻目に、部屋に帰ろうとします。 「……やっぱり貴方が隠してたのね!」 苦し紛れに、ついに妻が超理不尽なことを言ってしまいました。さすがに、夫のAさんでもどうかと思う発言です。困ったことに、どう考えても妻の主張のほうが根本的におかしく、矛盾しています。 「じゃあ、なんで言葉に詰まったの? 探してなかったからでしょ? そんなところにあるわけないと思い込んでたから。そうそう、隠して持ってきたってのもナシなのは、言うまでもないよね」 ちなみにそのときの息子は、服のようにかさばるものなど何ひとつ隠せないトランクス一丁姿でした。 「あなたが隠したのよ!」 それを聞いても妻にはもう通用しません。理屈も何も無く完全にブチ切れ、引っ込みがつかなくなりました。抗う妻に息子は、歌うように爽やかな声でとどめの言葉を炊き出します。 「やれやれ、母さんの性格を考えたら、いずれにせよ自分の過失を認めずに僕のせいにすることぐらい簡単に予測できるじゃん。いま母さんがヒステリックに吠えまくって近所迷惑で恥ずかしいということだけを取っても服を隠すメリットは全く無いだろ?」 息子は怒り狂う妻を前に、淡々と現状を分析して妻に説明しています。妻は、その言葉にますます逆上し更にヒステリックにわめき始めました。もう叫びに意味はありません。 「じゃあ父さん、そういうことで」 理論的な証明が(あくまでも自分の内的に)完了したことにすっかり満足した息子は、服を着て家から出て行ってしまいました。怒り狂った妻をAさんに押し付けて。 Aさんは、妻のわがままで頑固なところがかわいいと思いツンデレ萌えで結婚しましたが、息子はまだ若いせいかもしれませんが自分が正しいと思ったことを絶対に妥協しません。この点は明らかに妻の血を引いています。 でも、頭のいいツンデレはツンデレではありません。ちょっとマヌケだからかわいいのです。そこが分からずやっつけて気持ちよくなるだけのようでは、まだまだ息子も子供だと言わざるを得ません。つまりモヒカン族とは、頭がいい子供なわけです。 ヒステリーの矛先を、スッキリした顔で楽しそうに家から避難する息子からAさんに替え「もう離婚する」と叫びまくる妻を見ながら、さすがに思わず「なぜこの文脈で離婚と言い出すわけ? おれ関係ないじゃん」 と言葉のトマホークを投げそうになるのをグッと飲み込み妻をなだめる大人のAさんなのでした。 まあ大人というか、単なるマゾなのかもしれませんが。 |